濃厚流動食品と浸透圧について
浸透圧と下痢
濃厚流動食品の浸透圧と浸透圧性の下痢との関係とは?
通常ヒトの場合、1日に糞便中に排泄される水分は100 ~200 mlに過ぎないといわれています。下痢とはこの糞便中の水分量が異常に増加することですが、これにはつぎのような原因が考えれています1)。
1.消化管内に入った物質が吸収されにくく、管内の浸透圧が高くなり、
体液浸出で腸内溶液が増加する場合。
2.消化管の炎症などで腸粘膜の透過性が高まり浸出液が多量に管内に
流れこむ場合。
3.ホルモン、脂肪酸やある種のトキシンの作用により分泌液が盛んに出
る場合。
4.消化管運動の亢進で急速な腸管内容物の通過が起こり、その結果、
水分吸収量が低下し糞便水分量が増加する場合。
5.稀に、先天性の電解質と水吸収の障害がみられた場合。
6.その他の病態生理不明な原因の場合。
濃厚流動食品でよく話題になる製品の浸透圧と下痢については、上記①に関係する浸透圧性によるものです。この浸透圧性の下痢は、「摂取された物質自身の性質あるいは、摂取したヒト側の病態により、腸管で吸収されなかった物質が高濃度で腸管に滞留することにより、腸管内の浸透圧が高まり、これを希釈するために多量の体液が腸管内に移行することが原因」で起こるといわれております。たとえば、吸収されにくいマグネシウムを含有する薬剤や難消化性糖類などを過剰量摂取した場合に浸透圧性の下痢が起こります。また、消化酵素の欠損や乳糖不耐症などヒト側の病態も大きく浸透圧性下痢に影響します。
では、濃厚流動食品ではどうでしょうか。メーカー各社で製造されている各製品は、原料の大半が、通常、消化管内で速やかに消化吸収されうる成分から成り立っています(半消化態栄養といわれる所以です。)。このように難消化性成分が多量に含まれず、適切な摂取量の場合には、「腸管で吸収されなかった物質が高濃度で腸管に滞留する」ことが起こりにくいと考えられます。したがって、単純に製品の浸透圧の高低で下痢の誘発を推察することは、使用される原料から消化吸収面を考えると、あまり科学的ではないと考えられます。
では、下痢に対しての留意点はどのような内容になるのでしょうか。実際には、濃厚流動食品を含む経腸栄養では、製品の浸透圧よりもむしろ投与速度が、大きく下痢発生に影響するとされております2)。下痢防止には、投与初期に十分な馴化期間を設けること、その後の投与速度への注意、が喚起されています2)。また、栄養製品の濃度調整時の汚染も下痢の要因になり、大きな課題となっております。
一方、上述の下痢要因の②から⑥の原因は濃厚流動食それぞれの原因ではなく、摂取して頂く患者さん側の病態が大きく関与しており、製品毎の浸透圧の影響は小さいと考えられます。
1) 武藤泰敏 編著:消化・吸収 -基礎と臨床-、第一出版株式会社
(東京)pp.156-158、2002
2) 岩佐幹恵、岩佐正人:経腸栄養施行中にみられる消化器に関連した
合併症、日本臨床59巻、増刊5、349-354、2001
濃厚流動食品と浸透圧について
浸透圧とその単位
●浸透圧
「濃度の高い溶液と濃度の薄い溶液が半透性膜を隔てて存在する場合、濃度の薄い方から高い方へ水分が移動します。その際に膜にかかる圧力」を指します。
この浸透圧は溶液に溶けている固形物間の相互作用がない場合、その分子またはイオンの数(モル濃度)に比例します。浸透圧は測定しようとする溶液に含まれている固形物の分子数をもとにして計算されます。
●浸透圧の単位
mOsm/L : 溶液1L当りの、固形物(溶質)分子またはイオンのミリmol数
mOsm/kg H2O : 水1kg当りの、固形物(溶質)分子またはイオンのミリmol数
濃厚流動食品の浸透圧の単位・表示については、
日本流動食協会として、平成16年4月1日より、mOsm/L に統一していきます。
単位統一の背景と理由
本来、浸透圧についてはmOsm/kg H2OとmOsm/Lのいずれの表示でも科学的には問題ではありません。しかし、「下痢が少ないこと」の説明のために浸透圧の単位の違いで数値にも違いが出ることを説明せず、メーカー間の誤った製品説明競争が散見されていることを当協会として問題と捉え、濃厚流動食品を使用して頂いている医療従事者の方々への誤解を招かないように、当協会として、今回、単位・表示の統一を検討し、各協会員へ通知致しました。
浸透圧の表示
本来、浸透圧については、製品について法的な表示義務はありません。現状では、製品パンフレットに記載されている場合がほとんどです。今後各社は、平成16年4月1日以降、mOsm/L に単位統一をはかっていきます。
参考:各食品、その他の浸透圧(mOsm/L)
・血漿 : 約300
・牛乳 : 約260
・みそ汁 : 約70
・おしるこ: 約1100
・乳酸菌飲料: 約1200
・尿 : 50~1300
・ビール (アルコール5%): 約1070
・日本酒 : 約3100
・しょうゆ : 約6000
・ハチミツ : 約7500
浸透圧の測定法
濃厚流動食品の浸透圧測定法
1) 浸透圧の測定法は数通りありますが、比較的正確な実測値が得られ
る氷点降下法(凝固点降下法ともいいます。)を用います。
氷点降下度の測定により、溶質の分子・イオンの数(オスモル濃度)を
算出して浸透圧(mOsm/kg H2O)とし、後述の例に示すように
mOsm/L に換算します。
2) 製品そのままが高濃度で測定できない場合は、1kcal/mL程度に
希釈して測定します。
ただし、その場合には、希釈し測定したことと希釈条件を併記します。
※希釈の倍率は、濃厚流動食品の溶液量でなく水分量で計算する
こととします。
例えば、100mL中の水分が70 gの濃厚流動食を水で2倍に希釈し
た場合には、氷点降下法による浸透圧の測定値(mOsm/kg H2O)
は1/2ではなく、70/170になるようにします。
3) mOsm/kgで記載したい場合、mOsm/Lの値を併記します。
単位換算例
◆ 浸透圧実測値 : 480 mOsm/kg H2O
◆ 濃厚流動食品1L中の水分 : 850 g
浸透圧をmOsm/Lに換算するには、水分850 g当りの溶質量を
計算します。
480 mOsm/kg H2O : 1 kg(1000 g)= x mOsm/L : 850 g
→ 480 × 850 / 1000 = 408 mOsm/L